せまる「ブレグジット」による英国の未来像を探る

イギリスは、2019年10月31日に予定されていたEUからの離脱(ブレグジット)を、2020年1月31日に延期することを発表しました。行先不透明なこのブレグジット問題ですが、世界中のマーケターはブレグジット問題の動向に注目しています。なぜならこの問題は、EUとイギリスだけではなく、世界経済に大きな影響を及ぼしうる問題だからです。本記事では、佳境に差し掛かるブレグジットの背景とともに、世界経済への影響を探ります。

 

ブレグジットとは

イギリスでブレグジットを呼びかける国民(参照

 

ブレグジット(Brexit)とは、イギリス(Britain)と退出する(Exit)をかけ合わせて作られた言葉で、イギリスのEU離脱のことです。

 

EUの元々の目的は、ヨーロッパ諸国で協力し、戦争のない平和な連合を築くことでしたので、そのための政策として、移動、通貨、政治の統一という3つの大目標を掲げました。しかし、イギリスはEU(当時はEC)加入当初より経済的な援助を期待して加入した側面があったため、国家間を自由に移動できることを認めるシェンゲン協定に参加せず、EUの統一通貨である「ユーロ」も利用しないという独自の立場を取ってきました。

 

EU加盟国(参照

 

EU加盟国の中には、この独自の立場を主張するイギリスに対し批判的な感情を持つ国もありましたが、同様にイギリス国内でも、EUへの加盟が自国の経済を悪化させているとの声が徐々に大きくなっていきました。その主な理由として挙げられるのは、EUのための支払う巨額の費用と、大量の移民の流入、そしてギリシャ危機から見る金融政策の困難性などです。

 

EUからの離脱を訴える議会と国民の声がイギリス国内であまりにも大きくなってきたため、当時の首相であったキャメロン元首相は、国民投票で決着をつけることを提案しました。多くの国民が残留の意志を示していることがわかれば、離脱派は諦めると考えたのです。EUからの離脱派と、残留派に分かれ、激しい論争合戦が行われました。このときに作られた言葉がブレグジットです。

 

勝利を喜ぶ離脱派(参照

 

投票率が72%にも上る国民投票の結果、残留支持者が48%、離脱支持者が52%というまさかの結果となり、国の方針はブレグジットとなりました。その後イギリスは、ブレグジットに向けて、つまりEU離脱に向けて動き出します。

 

ブレグジット延期の背景

ブレグジットによるイギリスとEUの溝(参照

 

しかし、2016年にすでに決定しているにも関わらず、未だにブレグジットは行われていません。これは一体、どういうことでしょうか。まず1つは、EUとの交渉が上手くいっていないからです。イギリスがEUからの離脱を決定したとはいえ、イギリスにとってEU諸国は、非常に重要な貿易パートナーであることは間違いありません。EUからは離脱はするけれども、できる限りこれまで通りのルールで貿易を行いたいというのがイギリスの本音です。しかし、EUにとっては、勝手に離脱を決定した上に、都合のよい貿易の条件を突きつけてくるイギリスに対して面白くありません。少しでも良い条件を取り付けたいイギリスと、断固拒否のEU。これがイギリスがブリジットに踏み切るのを妨げている一番の理由です。

 

また、国民投票では、わずかにブレグジット派が上回ったものの、割合としてはほぼ半分というのが現状です。下記の図からもわかるように、地域によって、離脱派と残留派がはっきりと分かれているのです。その中でも特に重要な意味を持つのが北アイルランドです。イギリスはキリスト教のプロテスタントに属する人々が多く暮らしているますが、北アイルランドに住む人々の多くはカトリックに属しています。これまでは、EUに所属していたことでカトリックに属する人々も安心して生活できていましたが、イギリスがEUから離脱することで、少数派のカトリックの人々が暮らしにくい社会になるのではないかと懸念されています。ブレグジットは今、宗教の問題をも抱えているのです。

 

地域別の離脱派と残留派の割合(参照

 

さらにブレグジットの賛成派は年配層に多く、逆に若年層はEU残留派が多いといわれています。若年層は、EUに加入していたからこそEU諸国の有名大学に自由に入学できたり、国を選ばずに就職できたという恩恵を受けており、このシステムが崩壊することに対して不安を抱えています。一方、年配層は、自分たちが長らく納税してきたお金が、他のEU諸国や移民・難民に流れていってしまうことに対し疑問を持ち、「イギリスファースト」を強く主張しています。ブレグジットの実施が決定した今でも、国民たちの感情は真っ二つに分かれており、常に議論が絶えない日々を送っているのです。

 

イギリスでは、この不安定な状態を長く続けることは危険との見方から、EUとの有利な協定を結ぶことなく離脱する「合意なき離脱」が選択肢の1つとして挙げられています。2019年10月31日までにイギリスはその方向性に踏み切るかと思われましたが、ジョンソン現首相は、最終判断の期日を2020年1月31日に変更しました。それまでに妥協点が見つかるのか、もしくは合意なき離脱に踏み切ることになるのか、イギリスの今後に世界中の注目が集まっています。

 

ブレグジットが及ぼす世界経済への影響とは

もし、ブレグジットおよび「合意なき離脱」によるブレグジットが行われた場合、世界経済はどのような影響を受けるのでしょうか。

 

まず、最も大きな影響を受けるとされているのがイギリス経済です。イギリスの国立経済社会研究所(NIESR)の調査によると、もしもイギリスがブレグドットを実施した場合、残留した場合と比べて、年間で約9兆8000億円もの経済損失が見込まれると発表しました。また、英シンクタンクの調査では、「合意なき離脱」によるブレグジットに踏み切った際、比較的穏やかなシナリオであっても、公的負債が1960年代以降で最高の水準まで跳ね上がると試算しました。ブレグジットによって、イギリス経済は大きな打撃を受けることは、ほぼ間違いないといえそうです。ロンドン金融市場は、世界三大金融センターの1つといわれており、イギリス経済の大きな打撃は、世界経済に大きな影響を与える可能性があります。2008年に発生したリーマンショックのように、世界同時株安などが発生する可能性もあるのです。

 

ロンドンの高層ビル群(参照

 

また、イギリスは世界第5位のGDPを誇る経済大国としても知られています。もしイギリスが大きな経済打撃を受けるようなことがあれば、イギリスの主な貿易国であるアメリカや中国の経済も大きな影響を受けることになります。そして何よりもの影響力を受けるのはEU諸国です。イギリスと貿易を進めてきたEU諸国にとって、イギリスの離脱は非常に大きな問題です。特に、イギリスとの貿易が盛んなドイツが影響を受けることで、ドイツとの貿易が盛んな様々な国が影響を受ける・・・このような連鎖が引き起こされ、世界経済が不調に陥ることは十分に考えられるのです。

 

終わりに

本記事では、今話題となっているブレグジットの背景や経済に与える影響について見てきました。日本から遠く離れたヨーロッパで発生している問題であることから、あまり関心のなかった人もいるかと思いますが、日本経済そして世界経済に大きな影響を与えうる問題が、今まさに佳境を迎えているのです。ブレグジットの行く末によって、多くの企業が影響を受けることになります。「世界の1つの問題が世界経済に大きな影響を与える」これはこれまでの歴史でも頻繁に起こってきたことです。世界の影響力のある出来事に常に関心を持つことが、グローバルマーケティングで成功を収めるための大切なポイントです。ぜひブレグジットの行く末に注目してみてください。

 

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投稿者プロフィール

村上 崇
村上 崇
村上 崇(むらかみ たかし) 株式会社カーツメディアワークス 代表取締役/CEO

国立津山高専電子制御科にてロボットエ学を専攻。
報道番組のディレクターとして数々の事件、政治、トレンド情報などのリサーチから取材、リポート、編集まで幅広く手がけ、情報収集と情報発信の礎を築く。
その後、PRコンサルティングファームにて東証一部上場企業、グローバル企業などのブランディング及びクロスメディア戦略コンサルティングを手がけ独立。
コンテンツマーケティングおよび戦略PRを中心とした株式会社カーツメディアワークスを設立。